いよいよ開催まで1か月と迫った「World Robot Summit (WRS) 2025 過酷環境F-REIチャレンジ(以下、WRS2025福島大会)」。ロボットと人が共に未来の災害救助を担う姿を示すこの国際競技大会は、現在どのような準備段階にあるのでしょうか。WRS2025福島大会の運営には、主催する福島国際研究教育機構(F-REI)だけでなく、多くの大学、企業、団体が携わっています。今回は、事務局を担う主力3名に、F-REIのインタビュアーが直前の準備状況や国際大会ならではの課題、さらにWRS2025福島大会への思いをじっくりと伺いました。
図:インタビュー(2025年9月5日)を受けるMK氏、NT氏、YK氏(左から)
競技の仕組みは固まり、最後の調整段階へ
インタビュアー(F-REI): WRS2025福島大会を1ヶ月後に控えた今、準備はどんな段階にありますか?
YK: もう大枠は固まっていて、競技方法や実施内容も整い、審判トライアルを済ませ、しっかりと実証も終わった段階です。
NT: もちろん準備万端です。ただ、今回初めて実施される「過酷環境ドローンチャレンジ(HEDC)」に関しては、まだ調整している事項が残っています。その分、一番見応えのある競技になるのではないでしょうか。
インタビュアー: 海外チームの受け入れや機材搬入など、国際大会ならではの難しさがあると思います。国際大会に取り組む上での工夫や、直面している課題は何でしょうか?
YK: たくさんあります。国内と海外で法的な違いをクリアしなくてはいけませんし、文化や習慣も異なります。
インタビュアー: 文化や習慣の違いで、具体的なエピソードがあれば教えていただけますか?
YK: 食事などですね。例えば、インドチーム向けにホテルの近くにインド料理レストランがないと、参加者にとって不満につながる可能性があるので、その辺りはしっかりケアしたいと思っています。コンビニがあれば良いという話もありましたが、やはり歩いて行ける場所にそういった食事ができる場所があるかを考慮しながらホテルを選んでいます。ホスピタリティにも気を配っています。
MK: 海外チームをこの地域で受け入れる際、会場にいる間は私たちがサポートできますが、それ以外の時間、およそ1日の3分の1はそれぞれのホテルや地域で過ごされます。その地域に滞在する時間も長いため、地域の皆さんをどう巻き込み、協力していただくかが課題だと感じています。こうした大会を続けるには、私たちも含めて地域の皆で、海外の人を受け入れる体制をこれからも整えていく必要があると思います。
NT: 文化や宗教的な部分ももちろんありますが、事務的なことで言うと、海外とは時差があるのは当たり前ですが、期限を守る意識や連絡のやり取りのスピード感の意識が全く異なることがあります。かなり余裕を持って期限を設定しても、スケジュールが遅れていくことが多いですね。
インタビュアー: そういう苦労話は、次に国際大会を開催する際の教訓になりますね。そのような時、どのように催促されるのですか?何度も声をかけるのでしょうか?
NT: もちろん何度も、そして余裕を見て期限を案内しながら進めています。最終的には、あらゆるルートを使い、相手の時差に合わせた時間での電話連絡などを試していくしかありません。
安全と安心を両立させるために
インタビュアー: 次の質問です。ドローンやロボットのトラブルに備え、観客が安心して観戦できるように、どのようなサポート体制を整えているのでしょうか?緊急対応マニュアルなどの準備もされていると思いますが。
NT: そうですね。安全性は大前提です。
インタビュアー: 安全だからぜひ来てください、とアピールできる、と。
NT: はい。ですので、来場者が安全な範囲でしっかりと見ていただけるエリアを明確に区分しています。来場者が立ち入れない競技場所については、大型のLEDビジョンによるライブビューイングで、リアルタイムで実況を見ていただける環境も用意しています。ロボットやドローンへの技術的な好奇心とか、知的な好奇心みたいなものをお持ちの方はもちろんですけど、競技そのものを楽しみたい方にも新しい発見があるはずです。
インタビュアー: なるほど、いいですね。観客の安全は確保されており、かつ全然つまらないということもなく、非常に面白いものが見られるということですね。あとはキッチンカーも来ますよね。競技以外で楽しめる要素は何かありますか?
YK: ステージイベントや展示などがあります。
NT: 福島ロボットテストフィールドに来たことがない方にとっては、屋外でこんなロボットの試験が行われていて、トンネルやプラントが実物で使われているのを見られるだけでも、面白いと感じていただけると思います。
YK: これをきっかけにこの施設を知ってもらう。
NT:福島に来てもらって、福島のご飯はおいしいですよ、と。
MK: 一昨年だと思いますが、地元の小学5年生を招いてドローン教室を授業で行った際、ほとんどの児童がここに来たことがなく、知らなかったと言っていました。先生も初めて来たとおっしゃっていました。
インタビュアー: 地元でもですか。やはりここを知ってもらうことが大切ですね。将来、F-REIで働く研究者になってもらう意味でも。
本番までの仕上げ:即応体制、参加チーム支援、標準化
インタビュアー: では、競技大会本番まで残り1ヶ月ですが、皆さんにとって今、一番プレッシャーを感じる事柄は何ですか?
YK: プレッシャーとは少し違うかもしれませんが、アクシデントが起きた時に迅速な対応を行い、皆様にご迷惑のない形が取れるかどうかを気にしています。その対応次第で、この大会の継続性も、地元の方々の応援の度合いも変わってくると思います。地域と一体となって盛り上げていくイベントですので、アクシデントへの対応が最も懸念しているところです。
NT: やはり、主役は参加チームの皆さんです。競技会である以上は、書類選考を通過してやる気満々で応募してきた参加チームの皆さんが、完璧なパフォーマンスを出せるような環境を整えることが、事務局として重要だと考えています。参加チームから不満が出ないような会場運営やフローをしっかりと構築する必要があります。我々の落ち度でパフォーマンスが十分に発揮されないようなことがあると大変ですので、この辺りがプレッシャーですね。
MK: 競技をしっかり行うことも大事ですが、この事業の目標としてはロボット・ドローンの性能評価の標準化を置いていますので、それをどこまで追求できる大会にできるか、という点が一番プレッシャーだと思っています。無事故で終えることは、次の大会にとってももちろん非常に重要な要素です。これに加えて、標準化というものをこの大会でどう達成したのか、あるいは100%達成できなくても、突破口をこの中で作れたという事例を生み出せるかどうかが非常に重要だと考えています。オープンイノベーションを通じた標準化という側面もありますが、人と人との繋がりをどう作っていくのか、そういったイノベーションを生み出す場をどう作っていくのか、というところは事務局側でも意識的に仕掛けるところはあります。しかし、1ヶ月前という直前になると、目の前のことに一生懸命になってしまうところがどうしても出てきます。大会中も、そして大会が終わった後も、標準化を追求できるのか、ということは常に考えています。
福島で開催する意味
インタビュアー: 福島でWRS2025福島大会を開催することに対して、個人的にどのような意味を見出していますか?
NT: 福島ロボットテストフィールドが作られたこの場所は震災津波で流された土地にできています。長い時間が経ちましたが、少しずつ「創造的復興」と呼ばれるものに近づいているのかなという思いがあります。個人的な話で言うと、私は福島県出身ですので、浜通りが、ロボットなどの技術でもっと全国的に認知されて、ここから出ていくようなものとか、報道によって注目され、人が集まるようになるといいと思います。その一助になる大会、発信できるようなトピックにしたいという気持ちで取り組んでいます。
MK: 福島ロボットテストフィールドの計画段階の時に、建設予定地が更地の時に来たことがありますが、今来てみると、本当に様々なテストフィールドの建物が建って、ロボット開発の土壌と箱ができた。今回の競技大会には海外からも人が来てくれるし、国内からも優秀な大学・企業からエンジニアの人たちが来てくれる。個人的には感慨深いというか、やっとここまで来たなっていう思いは強いですね。
YK: 震災というところは辛いと思うんですが、災害大国の日本において、ロボット技術が震災地、被災地で発展して、ソリューションとして発信される。これを世界に知らしめるのが国際的な大会の意義だと思います。災害対応だけでなく、宇宙という夢の技術や、より平時から使えるという発展的なテーマになったと思っています。
一番の見どころは参加チームの表情
インタビュアー: では、最後の質問です。個人の思いを一言で結構です。WRS2025福島大会の本番の時に一番見てほしい一瞬ってどこですか?
MK: やはり、競技チームの活動なんだと思います。特に勝ったチームもそうなんですけど、負けてしまったチームが、どういったことをこれまでやってきて、今ここで何をしたのかっていうことはぜひ見て欲しいと思います。勝ったチームは皆さん見るんですよ。負けたチームって一般の方はなかなか注目しないと思うのですが、負けたチームの中にもいろんなことがあったと思うので、ぜひそこも含めて見てもらえたらなと思いますね。
NT: そうですね。ロボット自体の動きがどうこうっていうよりも、人のドラマが裏にあるので、そういった競技チームの動きを感じ取っていただければと思います。全競技をYouTubeライブで生配信しますので、それを見ていただきたい。すごいガッツポーズしているチームが一瞬映ったりとかの部分で、チームが準備してきたものとか裏の感情を感じ取っていただければなと思います。
YK: 私も答えが一緒になっちゃいますね。見てほしいとなると、ロボット競技会でありながら、ロボットよりも競技者の表情を見て欲しいですね。そこから色々なものを感じ取っていただきたいと思います。
インタビュアー: ありがとうございました。最後の質問に対する意見が全員一致したというのが、この運営チームメンバーの方向性がうまく一致していて、一体感があるのかなという風に思いました。競技会の日に天気が悪くなると、全ての人間ドラマも何もかも台無しになっちゃうかもしれないし、逆にそれで人間ドラマが生まれるかもしれない。当日の好天を祈りつつ、最後の準備を進めていきたいと思います。