植物のナトリウム排出メカニズムに関する新知見を発表 ― 第4分野委託研究の成果

令和5年度「農作物の生産性向上や持続可能な作物生産に資するRIイメージング技術の開発及び導き出される生産方法の実証」委託事業 課題名「植物RIイメージング研究拠点の形成と応用研究の展開」で実施された研究成果について公表しました。(主体発表機関:東京大学)。

「植物RIイメージング研究拠点の形成と応用研究の展開」事業概要PDF

植物は葉から根へナトリウムを送り返し、 根の“成熟領域”で捨てていた ――根端で排出される、という従来説を覆す、ナトリウム排出の実証――

発表のポイント

◆ナトリウムイオン(Na⁺)は植物にとって毒性が高く、体外への排出が塩耐性の鍵となります。本研究では植物のNa⁺排出部位に関する新たな知見を得ました。
◆従来は「Na⁺は主に根端(注1)から排出される」と考えられてきましたが、本研究はこの定説を覆し、Na⁺排出の大部分が根の大半の領域を占める“根成熟領域(注2)”で行われることを実証しました。特に葉に蓄積したNa⁺は再び根へ送り返され、そのほぼ全量(約95%)が根成熟領域から効率的に排出されることを明らかにしました。
◆本成果は、植物の塩耐性メカニズムの理解を大きく前進させ、将来的に海水環境や塩類集積土壌でも育つ耐塩性作物の開発に貢献すると期待されます。

概要

植物が塩ストレスに耐えるためには、体内に入ったNa⁺をどこで、どれだけ排出できるかが極めて重要です。Na⁺排出を担う主要輸送体である SALT OVERLY SENSITIVE 1(SOS1)は根端と根成熟領域の双方で働くとされてきましたが、どちらがどの程度寄与するのかは明確でなく、「Na⁺排出は根端で起こる」という見解が半ば定説となっていました。
東京大学大学院農学生命科学研究科の田野井慶太朗教授らのチームは、放射性トレーサー法と微小電極イオンフラックス測定法を組み合わせ、Na⁺排出の可視化と定量を世界で初めて同時に実施しました。その結果、根成熟領域こそが植物の主要なNa⁺排出部位であることを明確に示しました。
特に、葉に含まれるNa⁺は植物体内を移動して再び根に戻され、戻されたNa⁺の約95%が根から排出されていること、根成熟領域が主要なNa⁺排出部位であることを突き止めました。この知見は、塩害克服に向けた作物育種の基盤として大きな価値をもちます。

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用語解説

(注1) 根端:根の最先端に位置する小さな領域であり、主に細胞分裂と初期伸長が行われる。
(注2) 根成熟領域:根端以外の根の大部分の領域。

論文情報

雑誌名:「Plant, Cell & Environment」
題 名:SALT OVERLY SENSITIVE 1 Na⁺/H⁺ exchanger operates in mature root zone and is a major contributor to root Na⁺ exclusion during shoot-to-root Na⁺ recirculation
著者名:Tomoki Nagata, Ryohei Sugita, Takaaki Ogura, Mio Nagoya, Natsuko I. Kobayashi, Muhammad B. Gill, Lana Shabala, Tomoko M. Nakanishi, Sergey Shabala,
and Keitaro Tanoi* (*責任著者)
URL/DOI: https://doi.org/10.1111/pce.70317