レポート
エフレイ・フォーラムおよび
事前ワークショップ参加報告
科学コミュニケーター 本田隆行
1.事前ワークショップ
エフレイ・フォーラムを翌日に控えた2024(令和6)年2月22日、フォーラム開催に先駆けてF-REI主催の事前ワークショップが浪江町にある「いこいの村なみえ」にて開催されました。このワークショップはF-REIの主要研究5分野のうち最も社会と密接する第5分野「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」において、これまでの成果や今後解決すべき課題を整理し、今後の方向性を明らかにしようと開催されたものです。
ワークショップには第5分野の研究で中核を担う環境動態の研究者に加え、情報学、コミュニケーション、社会科学の専門家や大学生、さらに福島県内(特に浜通り地域)の自治体職員など約50名が参加しました。全部で5つのグループに分かれ、研究成果がどのようにまちづくりへ役立てられるのか、研究から得られた知見はどのように発信されるべきか、といった内容について午後いっぱいかけて自由闊達な対話が行われました。
時間が限られた中で議論をスムーズに進めるため、ワークショップの冒頭で事務局側から主な論点として「まちづくりに向けた課題への取り組み」「住民とのコミュニケーションと新たなコミュニティの形成」「生業の再生や住民の安心を得る取り組み」という3つが提示されました。この論点は、第5分野の研究分野およびその関連する領域に関わる様々な取り組みから抽出されたものです。また、対話をスムーズに進めるため、各グループにはコーディネート役としてF-REIのスタッフが配置されました。

各グループとも初対面の人が多い中、時間が経つにつれメンバーそれぞれの立ち位置や視点からの鋭い意見や指摘が次々と出るようになり、規定の時間はあっという間に過ぎてしまいました。各グループから出てきた意見や指摘の中から、一部ですが注目すべきと感じたものを筆者のコメントとともに以下に取り上げます。
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<論点1「まちづくりに向けた課題への取組」について>
上記は、どれも「行政の枠を超えた地域連携を進める必要性」に関するものです。地域に住む人は、生活に必要な買い物や医療、また教育などですでに自治体の枠を超えた移動を行なっています。それぞれの自治体が持つ課題には重なるものも少なくありません。そのため、同じ課題の解決を目指すには広域的な連携を図ることが重要ではないかと言う指摘が複数のグループから出ました。また、これには旗振り役や調整役の必要性についても指摘があり、地域に根差す新拠点としてのF-REIに期待される役割の一つとなるのでないかという意見も見られました。
上記はどれも「F-REIの存在感」に関して言及するものでした。地域の外からやってきた存在であるからこそ、地域に根差すには相手に合わせた丁寧なコミュニケーションが重要となることは言うまでもありません。世界的な研究拠点としてグローバルな視点を持つだけでなく、根差す地元にとっても大切な存在になるために必要なものを地域の方々と一緒に考える姿勢が大切です。他の学術研究都市が参考になる部分もあるでしょうが、逆にこの地だからこそ叶えられることもあるような気がしてなりません。
<論点2「住民とのコミュニケーションと、新たなコミュニティの形成」>
 うとする努力が大事。
上記は全て「研究者とのコミュニケーション」に関する意見です。もちろん研究活動を行うためにF-REIにくる研究者にも、日常生活はあります。生活の場を浜通りへと移す人もいるでしょうし、共同研究者としてしばしばこの地を訪れるようになる人もいるでしょう。どんな場であれ地元の方と接する時には「F-REIの人」として認識されることになります。何気ないコミュニケーションが地元の方から見たF-REIの心象を左右することもあれば、研究活動にとって重要な関係性を築くきっかけを生む可能性にも繋がります。
上記は「現在〜将来に向けた地域貢献」について言及されたものです。地域に根ざして研究活動を進める中では、地域にどう活動を理解してもらうかも大切な視点の一つです。放射線教育や原子力災害に関する防災情報の発信においてF-REIが地域にうまくコミュニケーションを取ることができれば、将来的には人材育成やF-REIの存在感向上にもつながるといった意見が出ました。
<論点3「生業の再生や、住民の安心を得る取組」>
上記は全て、「安心に向けた、安全の提示」に関する意見です。いくら安全を示す客観的な情報を提示できたとしても、安心できるかどうかは情報を受け取る個人の価値観に委ねられます。それぞれの安心“感”に寄り添うためには、相手と丁寧な対話を重ね、時間や体験を共有した上で育む信頼感が大切になるでしょう。
事前ワークショップでは、まだまだ始まったばかりのF-REIの研究活動やあり方に対して、当初設定された論点以外にも広く議論が発散したように感じました。地元の人もいれば福島県外からの参加者もいたので、それぞれから見える浜通りの姿、それぞれから見えるF-REIの姿が違ったからではないかと思います。

もちろん取り組むべき課題の中には震災によるものもあれば、少子高齢化や過疎化の進行など震災以前からあったものもあります。
ただ、今はそれらが複合的に関わっている状態です。そこに、元から住み続けている人、今は離れている人、戻ってきた人、新たに移り住む人、住んではいないけど関わる人と、他の地域よりも多様な立場の人が関係し、想いを持つからこそ、みんなに共通する「未来の地域の姿」を紡ぐのは一筋縄ではいかなくなっているのかもしれません。
これからF-REIと言う研究機関が浜通りを拠点として活動を進めていく上で、避けては通れない「様々な価値観を持つ人による対話活動」の第一歩目を、この事前ワークショップによって刻むことができたのではないかと、参加者の一人として感じた次第です。
2.エフレイ・フォーラム
エフレイ・フォーラムは事前ワークショップの翌日、令和6(2024)年2月23日にいわき市のいわき芸術文化交流館アリオスにて開催されました。国や地方自治体、教育・研究機関など関係31機関の後援を受けて開かれたF-REI設立後初となる一般市民向けのフォーラムで、一般の方々に加えて官公庁関係者、研究者、企業関係者なども含めると、会場・オンライン合わせておよそ300名の参加がありました。

また地域の方々へF-REIの取り組みを知ってもらい今後の連携を深めるため、サイドイベントとして地元高校および高専の協力のもと施設内の別会場にて「今後のエフレイについて考えるワークショップ」も同時開催されていました。
今回のフォーラムはF-REI設立初年度ということもあり、重点研究分野のうち社会との接点が多く市民の関心も高い第5分野に特化して開催されました。理事長の開会挨拶から始まったフォーラムでは、基調講演と4つの取り組み報告、そしてパネルディスカッションに加えて、さまざまな研究活動を知ることができるポスターセッションも行われました。

このレポートでは、プログラムの中から特に「9:パネルディスカッション」を取り上げることにします。
※なお、当日のプログラムごとの資料や動画は、F-REIのwebページにあるリンク先からそれぞれご覧いただけます。
(https://www.f-rei.go.jp/activity/20240223_01.html)

<9:パネルディスカッション>
パネルディスカッションは「まちづくりに向けた、地域に根差した取り組み」をテーマとして、F-REI大和田祐二執行役の進行のもと1時間半にわたって行われました。パネラーとして登場したのは、それぞれ福島浜通りや福島県内において研究・教育やまちづくり、人材育成などの活動を実行している下記の6人です。
HAMADOORI 13 代表 吉田学さん
(https://hamadoori13.or.jp/)
未来会議事務局長 菅波香織さん
(http://miraikaigi.or)
弘前大学被ばく医療総合研究所 菊地和貴 特任助教
(https://irem.hirosaki-u.ac.jp/)
東北大学大学院工学研究科 窪田亜矢 教授
(https://www.archi.tohoku.ac.jp/labs-pages/utd/)
福島工業高等専門学校 副校長 鈴木茂和 教授
(https://www.fukushima-nct.ac.jp/)
科学コミュニケーター 本田隆行(筆者)
(https://www.sc-honda.com/)
また、F-REIからも下記の2名がパネラーとして登場しました。
F-REI放射生態学ユニットリーダー 青野辰雄さん
F-REI国際・産学官連携推進課長 村山香さん

F-REIの重点研究第5分野は、環境動態研究をはじめとする理工学的な研究調査だけではありません。社会科学やまちづくりとの関わりや、さらにそこから情報発信、人材育成などの領域に至るまで、周辺領域に幅広い関わりを持っています。パネルディスカッションでは、この第5分野の広い関わりの中から抽出された論点を軸にして、話が進行していきました。

以下に、ディスカッションの中で出てきた意見をいくつかピックアップし、短くまとめた上で紹介します。
まずパネルディスカッションのテーマにもある「まちづくり」に関して。F-REIが地域とどう関わるかを考える際には、これまで地域にいた人や組織とどのようにコミュニケーションを行うかが重要です。この点については“信頼感”をキーワードとして、以下のような意見が相次ぎました。
- 信頼できる人や専門家との対話を踏まえて、一人一人の自己決定につなげる工夫が必要(菅波さん)
- 科学的な情報をただ伝えるだけでは足りない。信頼感の醸成に向けては、地域や人と直接触れ合う場が大事。既存の場もいろいろあるし、直接飛び込んで関わることで築ける関係性がある。(菊池さん、吉田さん)
- 安全と安心の違いを理解した上で、住民と研究者をつなぎ信頼関係を構築するためのコミュニケーションを担える役割は重要。(本田)
- 普段は理性的に振る舞えても、非常時ほど感情が先に出るもの。対話の場では“非常時の感情”を受け止めることも大事。(本田)
またコミュニケーションを実際に進める「対話の場」では、議論の材料となる客観的な情報として研究結果やデータも重要となります。環境動態研究から得られた知見をいかに相手に合わせた形で伝えることができるかについても、以下のような意見が出ました。
・環境動態研究から得られる知見は、それぞれの人生設計を自己決定する際の支えとなる。(窪田さん)
・福島県内でも地域によって状況はそれぞれ異なる。環境動態の地域による違いの理解がすすめば、ローカルな対策を考える際の助けになるはず。(青野さん)
地域住民とコミュニケーションを行う場を持ち、そこで研究から得られる客観的な情報のやりとりができるようになれば、やがては新たなコミュニティの形成につながるかもしれません。コミュニティ形成に関しては「それぞれの向く方向」「それぞれの間」に関してのコメントが続きました。
- 個々が意思決定するための判断材料となるデータを相手に届けるには、向こうとこちらの間をつなぐ経験のある人材の確保や配置が重要。(菊池さん)
- 都市計画や産業化について話を進める際には、住民と研究者が同じ方向を向き対等な立場に立つことで、ようやく対話の場やコミュニケーションが成り立つ。(菅波さん、吉田さん)
- コミュニティ形成の場として、実際にコミュニティハブのプロジェクト提案がなされている。(村山さん)
長期的な観点に立てば、コミュニケーションを通じて科学的な情報を伝えるためには、科学教育を通じた人材育成も重要です。人材育成や教育に関しては、フォーラムのプログラム5でもF-REIが福島高専と実施した「小中学生に向けた取り組み」の紹介がありましたが、これに関連したコメントも出ています。
- 今回の取り組みのような体験講座形式で、背景の違う相手へ情報を伝えるためにはどうすればよいか悩んで考える経験は、人材育成の観点から有効。(鈴木さん、青野さん)
- 話を聞いたり文章を読むだけでなく、実験を通じた実体験による科学への興味喚起は、科学が苦手と思い込んでいる大人の学び直しにもつながる。(本田)
福島や東北の復興実現に向けた夢や希望となるべく「創造的復興の中核拠点」として産声を上げたF-REIは、まだ誕生から1年と少しです。施設整備に向けて着々と準備が進められているものの、実際に研究拠点が完成するまではもうしばらく時間を要します。 未来の浜通り、そして未来の福島にプラスの変化を生み出すべく浪江町に拠点を構えたF-REIですが、拠点を構えただけでは研究は進んだとしても、浜通りや福島にはあまり変化を生み出せないかもしれません。目標の一つである“地元福島の復興”を実現するには、地元の地域に対して一方通行の思いを持つだけでなく、地域からも“我がまちの研究拠点”として認められることが必要です。そのためには、きっとお互いが膝を突き合わせて、どんな地域にしたいのか、どんな将来を描きたいのか、どんな関わりを作りたいのか、お互いに何ができるのか、細く長く、話をして関わり続けることが重要となる気がしてなりません。
福島にはこれからまだまだ、いろいろな変化が起こるはずです。その変化の中にはF-REIができたからこそ起こるプラスの変化がたくさんあればいいなとフォーラムからの帰り道すがら考えていたのですが、同時に福島の人が大切にしている「福島らしさ」は変わってほしくないなとも思うのです。変えてはならないものを変えずに、でもよりよい暮らしに向けて変えなければいけないところは、しっかり変化させる。そのために必要なことがらを誰が考えて、誰が関わって、誰が担うのでしょう。住み続ける人、住んでいた人、戻ってきた人、住んでいないけど関わる人……、さまざまな立場で関わる人が混ざり合う福島だからこそ、みんな少しずつ違っている価値観を突き合わせながら、未来に向けた対話を続けていく必要があるのだと思います。その場にF-REIが、不可欠な存在となりますように。
対話とは、口にするのは簡単ですが、実に奥が深く、そして難しい作業です。しかしそこには大きな可能性も秘めています。ディスカッションの最後に大和田執行役が紹介してくださった、哲学者・鷲田清一さんの言葉「対話の可能性」を記して、レポートを締めくくりたいと思います。
“対話の可能性
人と人のあいだには、性と性のあいだには、人と人以外の生きもののあいだには、どれほど声を、身ぶりを尽くしても、伝わらないことがある。思いとは違うことが伝わってしまうこともある。<対話>は、そのように共通の足場をもたない者のあいだで、たがいに分かりあおうとして試みられる。そのとき、理解しあえるはずだという前提に立てば、理解しえずに終わったとき、「ともにいられる」場所は閉じられる。けれども、理解しえなくてあたりまえだという前提に立てば、「ともにいられる」場所はもうすこし開かれる。 対話は、他人と同じ考え、同じ気持ちになるために試みられるのではない。語りあえば語りあうほど他人と自分との違いがより微細に分かるようになること、それが対話だ。「分かりあえない」「伝わらない」という戸惑いや痛みから出発すること、それは、不可解なものに身を開くことなのだ。 「何かを学びましたな。それは最初はいつも、何かを失ったような気がするものです」(バーナード・ショー)。何かを失ったような気になるのは、対話の功績である。他者をまなざすコンテクストが対話のなかで広がったからだ。対話は、他者へのわたしのまなざし、ひいてはわたしのわたし自身へのまなざしを開いてくれる。 対話は、生きた人や生きもののあいだで試みられるだけではない。あの大震災の後、わたしたちが対話をもっとも強く願ったのは、震災で亡くした家族や友や動物たち、さらには、ついに“損なわれた自然”をわたしたちが手渡すほかなくなってしまった未来の世代であろう。そういう他者たちもまた、不在の、しかし確かな、対話の相手方としてある。
せんだいメディアテーク館長 鷲田清一”
(出典:せんだいメディアテーク「対話の可能性」サイトより)
<筆者照会>―――――――――――――――――――――――――――――
科学コミュニケーター 本田 隆行
プロのサイエンスコミュニケーターとして全国で活躍中(NHKサイエンスZERO「初代 キング オブサイエンスコミュニケーター」(2013年))。福島県の環境創造センターにおけるシンポジウム(2020年)や小中学生のサイエンスクラブ「コミュタンサイエンスアカデミア」のファシリテーター、大熊町主催の「ゼロカーボンフェスティバル2022inおおくま」での登壇など、福島との関わりも多い。