処理水・廃炉に関する情報Information on treated water and decommissioning

(2025年)

福島近海のヒラメを食べると、ALPS処理水中のトリチウムの影響はありますか 

海水からヒラメへ移るトリチウム量をシミュレーションで推定した結果、ヒラメを日常的に食べても人体への影響は無視できるほど小さいと評価されました。

東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、廃炉作業を進めるために多核種除去設備(ALPS)で浄化した処理水を海に放出していますこの処理水にはトリチウムがごく微量に残っています。トリチウムは水に近い性質をもち、環境中での挙動を理解したうえで魚介類への移行を評価する必要があります。国や事業者は海水や魚介類のモニタリングを行い、安全性を確認していますが、限られた数の観測だけでは、時間的・空間的に細かい変化を把握することが難しいという課題があります。 

そこで、日本原子力研究開発機構と環境科学技術研究所は、海水から食物連鎖(プランクトン→小魚→ヒラメ)を通じてヒラメへ移るトリチウム量を数値的に推定し、食品として摂取した場合の線量影響を評価しました。 

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1 研究の概要 

評価では2つのモデルを組み合わせました。まず海洋拡散モデルで、福島沿岸の海況に基づき海水中トリチウムの分布を計算しました。つぎに生態系移行モデルで、海水からヒラメへの移行と食物連鎖による移行を考慮し、ヒラメ体内のトリチウム濃度の時間変化を推定しました。計算対象は2023年1月12月で、実際の放出条件に基づいて設定しています。 

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図2 シミュレーションモデルの概念図 

モデルの妥当性は、代表的な海況指標である海水温(表層・底層)の計算値と観測値の比較により確認され、よく一致しました。これは、海水中トリチウムの広がりを評価するうえで重要な海況再現性を満たしていることを意味します。 

 

3 福島近海における2023年3月の表層水温(左)と 2023年の底水温(右)における計算値と観測値との比較 

結果として、2023年の1年間に、1Fから約560 kmの範囲に生息していた平均的なヒラメの有機結合型トリチウム(OBT)1) 濃度は最大で0.033 Bq/Lと推定されました。これはモニタリングで検出できる最低濃度(0.21 Bq/L)のおよそ1/10で、福島近隣の雨水や河川水で観測されるトリチウム濃度(0.24–0.81 Bq/L)よりも低い値でした。 

  

図4 各評価地点(左)に生息するヒラメに含まれる最大OBT濃度の推定結果(右) 

さらに、このヒラメを日本人が毎日190 g、1年間摂取し続けた場合の被ばく線量2) (実効線量)は0.55 nSv(ナノシーベルト。ナノシーベルトはマイクロシーベルトの1000分の1、ミリシーベルトの百万分の1)と推定されました。これは国際放射線防護委員会(ICRP)3) が定める一般公衆の年間線量限度1,000,000 nSv(1ミリシーベルト)と比べて極めて小さく、食品としての摂取による人体影響はほとんどないと結論づけられます。 

この手法は、ヒラメ以外の魚介類にも応用できると期待されています。今後もALPS処理水の放出が続く中で、こうした科学的な推定によって海産物の安全性を確認し風評影響の防止対策の一助になることが期待できます。 

用語解説 

1) 有機結合型トリチウム(OBT: Organically Bound Tritium) 

体組織中の有機物と化学的に結合しているトリチウムで、生物体内に水としてふるまう自由水型トリチウムと比べ、体内に長く留まることが知られています。そのため、人が摂取した場合、OBTの被ばく影響は自由水型トリチウムよりも大きくなります 

2) 被ばく線量 

人体が放射線にさらされることを被ばくと呼び、被ばくした放射線の量を被ばく線量といいます。本研究では、放射線の種類、組織や臓器の放射線の感受性を考慮した「実効線量」を被ばく線量としています。