放射性物質・空間線量率Radioactivity and Air Dose Rate
(2025年)
Q土壌中の雲母は、どうして放射性セシウムを強く吸着するのですか。
A雲母が風化して層がわずかに広がると、層間に「フレイド・エッジ・サイト」と呼ばれる微小な領域が生まれます。この狭いすき間がセシウムを強く固定し、移動や作物への移行を抑えます。京都府立大学と日本原子力研究開発機構の研究チームは、その安定化の仕組みを原子レベルで明らかにしました。
図1.土壌中に存在する天然鉱物,雲母の写真
これは土壌に残る雲母としては特に巨大な結晶であり,実際は数ミクロン(100万分の1メートル)サイズのものが多い。
雲母は土壌に広く存在する天然鉱物で、福島第一原子力発電所事故後の農地において、作物が放射性セシウムを吸収するのを抑える重要な役割を果たしてきました。
雲母は層状の結晶構造をもち、通常はカリウムイオン(K+)が層間をつなぐ役割を果たしています。この状態では層間が狭く、セシウムは入り込めません。しかし、風化によって雲母が“壊れかける”と、K+が抜けて水和した陽イオンが入り、層間がわずかに広がります。すると、狭い層と広い層の中間に「フレイド・エッジ・サイト(FES)」と呼ばれる微小な領域が形成され、ここでセシウムが強く吸着されます。
図2.雲母の結晶モデル
上下の層はケイ素(Si)とアルミニウム(Al)と酸素(O)を主な構成元素にもち,Si(4+)の一部がAl(3+)に置換されることで,層全体が負の電荷を帯びています。この負電荷を中和するため,層間にはK+などの陽イオンが“つなぎ”として存在しています。
研究チームは、雲母の層間距離を段階的に人工的に拡げたモデルを作り、セシウムがどの幅で最も安定化するかを高精度の数値シミュレーションで調べました。また、実験面でも、層間のつなぎイオンをカリウム(K+)からやや大きいルビジウム(Rb+)に置換して吸着試験を行い、シミュレーション結果を検証しました。
図3.雲母の結晶モデルを拡張させる様子
d0で表される層間距離が1.0 nmほどであり、ここから赤い〇で囲んだ元素の位置を上下に少しずつ移動させてシートを拡張させます。拡張された幅をΔdとして表しています。
その結果、層間を約0.2 nm程度拡張した状態でセシウムが最も安定化することが分かりました。加えて、つなぎイオンがRb+の場合にはセシウムの安定性が低下する(=セシウムが捕まりにくくなる)ことも示され、これはシミュレーションと実験の両面で一致しました。置換の影響が出るのはフレイド・エッジ・サイトの局所的な化学状態だけで、層間の大部分での元素置換はセシウム安定性に影響しないことも明らかにしています。
図4.雲母のシート末端でのK+→Cs+もしくはRb+→Cs+イオン交換の模式図(左図)
およびシートの拡張とセシウムの安定性(右図)
さらに、層間のK+を少し大きなイオンであるルビジウム(Rb+)に置換すると、セシウムの安定性が低下することも確かめました。これは、実際の雲母試料を用いた吸着実験でも確認されました。重要なのは、この不安定化は雲母全体ではなく、フレイド・エッジ・サイトにあるイオンの置換だけが影響することを明らかにした点です。
この成果は、天然鉱物が放射性セシウムを強く捕らえる仕組みを原子レベルで解明したものです。今後は、この知見を応用して、セシウムを効果的に封じ込める新しい機能性物質の開発などにつながることが期待されます。
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参考文献
1) Uno, K., Okumura, M., Nakao, A., Yamaguchi, A., Yanai, J.(2024): Cesium stability on the interlayers of K- or Rb-fixing micaceous minerals investigated by both experimental and numerical simulation methods, Science of the Total Environment, Volume 949, 175012. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2024.175012
Q セシウムはどのように粘土鉱物に吸着するのですか。
Q 空間線量率の低下しやすいところには、どのような特徴がありますか。