被ばく線量評価・除染Assessment of Exposure Doses and Decontamination
(2025年)
Q住民の生活行動を踏まえた被ばく線量の評価は、具体的にどのような方法で行われているのでしょうか?
A日本原子力研究開発機構(JAEA)などが開発した新しい評価モデルでは、住民の生活行動を反映し、屋外・屋内の線量や建物の遮へい効果を組み合わせて被ばく線量を推定します。個人線量計を用いずに高精度な予測が可能で、誤差は約13%にとどまります。この方法は、帰還困難区域の避難指示解除の判断にも実際に活用されています。
福島第一原子力発電所事故後、帰還困難区域では住民の安全を最優先に避難指示が継続されてきました。避難指示を解除するには、実際に生活したときの被ばく線量を現実的に予測する必要があります。従来は、国が「住民が屋外に8時間、屋内に16時間滞在する」という一律の仮定を置き、地域平均を使った単純で保守的な計算や、個々人が装着する個人線量計の実測が用いられてきました。しかしながら、前者は実際の暮らしを反映しにくく、後者は過去や予測に使いづらい・利用が難しいという制約がありました。
そこで、JAEAを中心とした研究チームは「住民がいつどこにいるか(生活行動)」と、既存の環境放射線モニタリングデータや建物ごとの屋内低減効果などを組み合わせることで、実際に暮らした場合の被ばく線量を現実的に予測するモデルを開発しました。
図1.新たな被ばく線量評価モデルの概要
新たな手法では、屋内の空間線量率を屋外の空間線量率から、家屋における空間線量率の低減効果(屋内低減係数)や屋内での自然放射(ラドンや建材由来のバックグラウンド)を考慮して推定します。
屋内低減係数は事故の影響を受けた地域にある207件の建築物で評価し、屋外と屋内の比が空間線量率に依存して変化する(線量率が低いと比が1に近づく)ことを示しました。
図2 屋内と屋外の空間線量率の比(実測値と推定値の比較)
屋外の空間線量率が比較的高い場合、屋内の空間線量率は屋外の値の0.4ほどになります。
一方、屋外の空間線量率が0に近づくほど「屋内/屋外の空間線量率の比」は1に近づきます。
これは屋外に存在する放射性セシウムに由来する放射線が少なく、バックグラウンド線量率が支配的になるため、家屋による低減効果が小さくなっていることを示しています。このバックグラウンド線量を考慮することで屋内推定の精度が従来法より32〜45%改善されました。
結果の妥当性は、帰還困難区域を含む地域で働く協力者から個人線量データと行動記録(106人日分)を収集し検証しました。
その結果、避難指示解除の目安である年間20 mSv 程度(毎時 3.8 μSv程度)に相当する環境下で、予測誤差は約13%に収まり、実用に耐える精度であることが示されました。
図3.個人線量計により測定した実測値と本研究による推定値の比較
このモデルは、特定復興再生拠点区域での避難指示解除の判断に活用され、各自治体の除染検証委員会にも提供されてきました。現在では、自治体のホームページなどで一般住民が利用できるツールとして公開されており、放射線防護と安心感の醸成に役立っています。
今後予定されている特定帰還居住区域での避難指示解除においても、このモデルの活用が見込まれています。さらに、将来的には万が一の原子力災害時に、避難時や屋内退避時の被ばく線量を予測する原子力防災ツールとしての利用も期待されています。
関連するQ&A
参考文献
1) Sato, R., Yoshimura, K., Sanada, Y., Mikami, S., Yamada, T., Nakasone, T., Kanaizuka, S., Sato, T., Mori, T., Takagi, M.(2024): Assessment of individual external exposure doses based on environmental radiation in areas affected by the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station accident, Environment International, vol. 194, 109148. DOI: 10.1016/j.envint.2024.109148
4) 内閣府, 復興庁, 環境省, 原子力規制庁(2023): 特定帰還居住区域における放射線防護対策について, https://www.nra.go.jp/data/000443581.pdf(2025.11.28アクセス)
Q 住民が安心できる帰還困難区域の解除に向けて、どんな取組を行なっていますか。
Q 除染により空間線量率はどの程度低減しますか。